内視鏡外科手術センター

特徴

内視鏡外科手術(腹腔鏡手術)が、わが国で初めて行われたのは1990年とまだ比較的最近のことです。当院では、1991年という早い時期からこの手術に取組んできました。
現在は、胆石症、総胆管結石症、大腸癌、胃癌、鼠径ヘルニアなどを中心として、適応となる疾患には積極的に内視鏡外科手術を行い、より安全で確実な手術を提供できる体制作りを心がけています。

当院での診療内容

腹腔鏡下手術は、従来の開腹手術のような大きな切開を加えることがなく、モニターの画面に映し出された映像を見ながら、さまざまな細径の機器(鉗子など)を操作して手術を行います。そのため、体表につく傷は5-10mmの小さな穴が数か所と小さな切開創のみとなります。
この手術の良い点としては、傷が小さいので整容性(美容的)に優れていること、術後の痛みが少ないことなどがあげられます。そのため、低侵襲な手術(体のやさしい手術)と評価されています。また、高齢の方に対しても、早期に離床が可能で、術後の合併症が少ないことなどからこの手術を安心して受けて頂くことができます。
手術を安全に行うため日本内視鏡外科学会では、「技術認定制度」を立ち上げ、指導的な立場でこの手術を行うことができる医師を認定するための試験を行っています。当院では、この資格を有する医師(技術認定医)がおり、安全な手術を提供できる体制を確立しています。
今後とも安全、確実な内視鏡外科手術を行うように努力して行きたいと考えていますので、よろしくお願いいたします。

直腸癌手術に対する縫合不全対策

縫合不全は、直腸癌の腹腔鏡下前方切除術後の最も重篤な合併症の1つで6.3% から13.7%にみられるとの報告もあります1)。 縫合不全の原因の一つとしてDouble Stapling Technique法での構造的な脆弱部の問題があります。癌部を切除後、図に示すように直腸を切除した縫合線上を円形にくり抜き、自動的に吻合する自動縫合器(circular stapler)を用いて、結腸と直腸を吻合します。この際、縫合線の交点(staple on staple部)、および外側縁(dog ear)は、構造的な脆弱部と報告されています1)。縫合不全を防ぐために、構造的に弱い部位をなくすべく、いろいろな取り組みがおこなわれています。

当院の手術手技

通常行われている手術では直腸管腔の中心に結腸管腔の中心を合わせることにより、2か所の構造的に脆弱なstaple on stapleができますが、直腸切離線の左側外側縁を、circular staplerで打ち抜くことにより、1か所に減らすことができます。鏡視下に右側にできたstaple on staple部は吸収糸で縫合補強します。さらに直腸外側縁(Dog ear)は埋没縫合します。

腹腔鏡下直腸切除、縫合不全対策

手術時間は348±71分、出血量は121±133mlで、縫合不全率は2.8%(1/36)でした。吻合狭窄等の吻合部関連の合併症は認めませんでした。
腹腔鏡下で縫合補強を行う手技は難易度も高く、手術時間も長いですが、脆弱な部の縫合補強が可能なため、縫合不全率は低下させることができます。

腹腔鏡下前方切除術成績

文献;

1)SeungHun Lee :The Relationship Between the Number of Intersections of Staple Lines and Anastomotic Leakage After the Use of a Doubl e Stapling Technique in Laparoscopic Colorectal Surgery. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech 2017;27:273-281

腹腔鏡下大腸切除後の間膜欠損部に起因するイレウス対策

腹腔鏡下結腸、直腸切除において腸管切除によって生じる腸間膜欠損部については、一般的に閉鎖しないことが多く当院でも腸間膜の閉鎖は2014年までは行っていませんでした。内ヘルニアのリスクの発生率は 0.65%と比較的まれな合併症であり、 そのうち 75%が左側大腸で発生します1).しかし、腸間膜欠損部に生じた内ヘルニアでは 捻転や絞扼をきたす可能性が高く、内ヘルニア症例では再手術が必要となります.
当院では2014年9月以降は間膜欠損部の縫合閉鎖を原則として行っており間膜欠損に起因する内ヘルニアによるイレウスは認めておりません。

1)Toh JW, et al: The risk of internal hernia or volvulus after laparoscopic colorectal surgery: a systematic review. Colorectal Dis 18:1133-1141, 2016

イレウス対策
腹腔鏡下大腸癌術後イレウス間膜縫合前後の比較

代表的な疾患、治療対象

  • 胆石症
  • 大腸癌
  • 胃癌
  • 鼠径ヘルニア
  • 虫垂炎

診療実績

2021 2022 2023
切除を行った悪性疾患
内訳 胃がん 3 2 1
結腸癌 28 27 25
直腸癌 20 14 21
2021 2022 2023
良性疾患に対する手術
内訳 胆のう摘出術 63 55 43
虫垂切除術 19 12 12
ソケイ・大腿・腹壁瘢痕ヘルニア手術 68 59 76